優秀な技術者になる・優秀な技術者を育てる その2 モチベーション 後編

2.3 モチベーションはどこから生まれるのか

 私が疑問に思っているのは「モチベーション向上願望」は本能からきているのか?です。前編でお話しました様にほとんどの人はモチベーションをもって働きたいと思っています。しかし、反面、楽したい、さぼりたいとの誘惑があります。どちらか言うと、こちらの「楽したい」との願望の方が強いように思います。

 「モチベーションの脳内機構と制御」 南本敬史 https://www.jst.go.jp/pr/jst-news/backnumber/2010/201103/pdf/2011_03_p14.pdf

の記事を見つけました。猿は水を沢山もらえるように学習し、努力するという、モチベーションの高さを測定しました。

 しかし、目の前の報酬に対する努力に関するものと感じました。猿が次のボスの座を狙って毎日筋トレする話は聞いていません。人間はします。人間だけです。私の単なる直感ですが、人間にとって楽したい、サボリたいが本能で、モチベーションを上げて頑張るのは長い歴史と社会性から生まれたもののように感じます。 安泰に暮らしたいため、いろいろな努力をしていることになります。

 人間本来の欲求に関しての有名な説に「マズローの欲求5段階説」があります。最も低い段階から順に、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求があります。

      

3段階目の社会的欲求までは人間らしく暮らしたいとの欲求になります。望ましいのは承認欲求を満たすためのモチベーションで、仕事内容のレベルアップに直接結びつきます。オス猿のボスになりたいとの欲求も似ている気がします。しかし、そのために猿は毎日筋トレをしません。なぜ人間はひたすらモチベーションを持って毎日筋トレできるのか。遺伝子に組み込まれているのか、永い歴史の中で生まれた規範なのか、この辺りが明確になれば、モチベーションの高め方も別の見方が出てくるのではと思っています。

 5段階の自己実現欲求までは、普通の人にはなかなか到達できない欲求ではないかと思います。頭に浮かびますのは有名な葛飾北斎です。死ぬ間際に「あと10年あるいは5年生きられたらもっと上手な絵描きになれたのに」と言ったそうです。これこそ最高のモチベーションに思います。

 しかし、ほっとけば、サボリたくなる現実の凡人の集団がいかに高いモチベーションを長い時間維持できるようになるかが、一番の課題となります。本能に訴えられるのならベストです。

 

2.4 まとめ: 最も大切と思う3つの施策

 モチベーションを高く維持する方法は、様々な方法が提案されてきました。しかし、前述で考察してきました様に、個々の技術者がマズローのどの段階の欲求を満たしたいのか、また個々人の性格の違いによっても異なるように感じます。そのあたりまで深く考えての方法論があるのかはまだ知りません。

このような中で、あえて私が今までの経験で、役に立つと思われる3つのポイントを挙げてみました。覚えやすいようにキャッチコピー化したキーワードにしてみました。

①  三日坊主でもOK

②  明日があるさ

③  鍋の中の蛙、大海を見よう

①三日坊主でもOK

昔から何をやっても長続きしない人を三日坊主と呼びます。普通の人でも人間の弱さから、高いモチベーションを長期間維持できない悩みを持つケースが一番多いのではと思っています。学生時代に早くから期末試験勉強を始めても、挫けて、勉強に集中できませんでした。試験3日前になると焦りだし、一心不乱に勉強しました。集中しているときと、そうでないときと、能率は3倍程度違っていたと思います。仕事の能率でも、モチベーションが高い時と低い時では能率に大きな差があります。いかにモチベーションを高く維持できるかです。三日坊主からのいかに脱却するかとなります。

 モチベーションを3日しか高く維持できないのなら、3日毎に目標を更新していけば良いことになります。3日は少し短すぎるかもしれませんので、せめて1週間毎に目標を更新することをお勧めします。

最終目標を系統立てて、分解して、1週間ごとの目標に落とし込みます。

 大切なのは、その目標を机の前等の毎日見えるところに貼ることです。目標は最終目標と1週間の目標と両方書きます。仲間にも見られるところに貼るのも良いと思います。1週間ごとに張り替えます。

三日坊主対策に「マインドマップ」と言う方法があります。いろいろな指南書があります。

インターネットにも以下の解説ページがあります。他にも多数あります

 

明日があるさ

いくらモチベーションを高く維持できても、いつかは折れます。気晴らしが大切です。1週間に1度は、仕事を忘れ、趣味に没頭する、家族と過ごす、仲間と飲む等の気晴らしが必要です。納期が迫っている技術者は追い詰められて土日返上となります。耐えられるのは数週間だけです。週に1度でも生き抜きするのと、しないで追い詰められたまま仕事を続けるのと、どちらが早く完成するか、実験するのも良いと思います。

 私の好きな一昔前の歌に「明日があるさ」があります。一部の歌詞を下に示します。

明日があるさ

若い僕には夢がある

いつかはきっと いつかはきっと

わかってくれるだろ

明日がある 明日がある 明日があるさ

作詞: 青島幸男

定期的にリフレッシュしていれば、気持ちは強くなり、上司に多少怒られても、なにくそと思い「明日があるさ」の気分になれると思います。挫けたときは是非口ずさんでください。カラオケで大声で歌う方が良いです。

 

③鍋の中の蛙 大海を見よう

 井の中の蛙は大海を知らなくても、井戸の中で一生安泰に過ごせるかもしれません。しかし、鍋の中の蛙は外の様子を知って、すぐに鍋から出ないとゆであがります。前述のように日本の技術者がもし「ゆでガエル」状態ですと大変です。まず、外を知らなければなりません。

 私は40年前の1983年に1年半、会社から派遣されてアメリカのアリゾナ大学に留学しました。発表スライドづくり、簡単な実験器具づくり等、すべてスタッフが居て自由に頼めました。研究効率を上げるための仕組みが様々に工夫されていました。単にお金の余裕の問題でなく、価値観の違いと思いました。大げさに言えばカルチャーショックでした。

 日本では、技術者は業務に没頭していると、本人、上司とも安心を感じているように思われます。しかし単に没頭していると外を見る余裕がなくなります。

とにかく、外を見る努力が必要と思います。そして、外から中を見るようにします。海外に行く、単なる訪問よりできれば滞在するのがベストです。海外に友人を作るのも良いです。

 日常においても技術者は営業についてお客様を訪問する、あるいはサービスマンについて修理の現場を回るのももっと良いと思います。学会活動、他社との共同開発等もあります。

 外から、自分の仕事を垣間見えると新たな活力、モチベーションが生まれると思います。もちろん、そとを見ることはモチベーション向上以外にも様々な効用があることはご存じと思います。

次回は情報 知識 知恵についてです。お楽しみに

 

一休み 渡良瀬遊水地の野鳥たち その2

 

一般社団法人光融合技術協会の独自研究のご紹介 その2

  プラスチック基板へのSiO2成膜を数倍高速化する技術を宇大と共同開発

 

前回、ご紹介しました様に、フレキシブル太陽電池やフレキシブル表示・照明パネルの耐久性が大きな課題となっています。そのためには、デバイス内への水分の侵入を防止するいわゆるガスバリア膜が必須です。

我々は宇都宮大学(依田准教授)と光融合技術協会(大谷)の共同研究として、“HC-PECVD (ホローカソード プラズマ活性化 化学的気相蒸着法)によるハイバリア膜の高速成膜条件の検討”を進めています。

 

  1. 研究内容

SiO2薄膜は、光学薄膜のほか、酸素や水蒸気のバリア膜として用いられますが、その膜密度を向上させるとバリア性が向上するとの報告がなされています。成膜条件を変化させて実験した結果、バリア性能は未確認ですが、成膜時圧力1.5Pa以下で高密度、高硬度SiO2薄膜を成膜できることがわかりましたので紹介いたします。

 

2. 実験装置

実験に用いたHC-PECVD装置の概略を図1に示します。SiO2成膜のための前駆体としてTMDSO、プラズマ源としてAGC-PTS(Plasma Technology Solutions) 製のホロカソード(HC)を用いました。高流量の酸素が導入される2対の空洞状陰極に交流電力を印加することで生成される高密度の酸素プラズマが小さなノズル列から基板側に放出され、そのプラズマ中に2対の電極の間から導入される前駆体の分解反応によって安定な高速成膜を可能にしています。

 

  1. 実験結果

HC-PECVDの成膜変数(TMDSO流量、酸素流量、ガス圧、印加電力)と膜密度の関係を検討しました。特には、膜密度を上げるためには成膜時のガス圧が重要と考え、排気バルブ開閉度(全開or半開)を変えてガス圧0.5~3.0Paになるよう成膜したときの、酸素流量とガス圧の関係を調べました。その結果、

ガス圧0.5~1.5Paにて成膜することで、スパッタ膜と同等の高密度・高硬度・炭素量2%以下の低応力SiO2膜を、50μm厚のPET基板上に成膜できることを実証しました。光学用途にはたいへん有望な技術であると言えるかと思います。ただ、これまで得られた膜のバリア性を評価していますが、何故か、まだ期待されるバリア性を示す膜は得られていません。現在、その理由を調べているところです。

Fig.1 Schematic diagram of HC-PECVD system and hollow cathode

 

4.今後の予定

 引き続き、バリア性が得られない原因の究明と対策の検討を続けますが、光学用途への展開も並行し

て進めたいと考えています。


一般社団法人光融合技術協会は下記をご参照ください。

https://www.i-opt.org/