優秀な技術者になる・優秀な技術者を育てる  その6 発想力

優秀な技術者になる・優秀な技術者を育てる  その6 発想力

 発想力と創造力、似たような混同しそうな言葉ですが、前者は新しいアイディアを生み、後者はそれを具現化することです。今回は先ずは発想力についてお話しします。

 

ゼロからアイディアを生み出すことはまず不可能で、普通は1+1=3のケースです。

2つ以上の独立した知識の組み合わせ、工夫することにより、今までにない新しい価値を生み出すことです。

例えばアインシュタインの相対性原理ですが、ゼロから考え出されたものではありません。逸話になりますが、ガリレオ・ガリレイの相対性実験とマイケル&モーリーの光の速度測定実験の結果等を深く吟味することにより生み出されたと言われています。

ガリレオの実験では、動いている船のマストの上からものを落とすと、船上ではまっすぐ落ちてきます。しかし、岸から見ると、物は船と共に動いているので、物は弧を描いて落ちてきます。岸から見た方が長い距離を描いて落ちてくることになります。観測者によって変わる事を発見しています。

 一方、マイケルソンとモーリーは干渉計の1軸を南北に、他方の軸を東西に向けて干渉縞を観察しました。次に、90度回転して同様に観測しました。もし、そのころの理論による光がエーテルの中を進むならば、東西は地球の自転運動方向なのでガリレオの相対性原理から90度回転前後で干渉縞が変わるはずでした。しかし、変わりませんでした。これは観測者によらず光の進む速度は変わらないことを示しています。(マイケルソン・モーリーの実験 - Wikipedia)

 アインシュタインはこの実験結果から有名な相対性原理を導き出しました。さらに理論構築にはリーマン幾何学の助けを借りました。リーマン幾何学を紹介したのは友人です。

 このように、偉大な発想には幅広い知識、知人からの助言等を土台にしたひらめきが必要となります。

発想の瞬間はいつ?

 ニュートンの有名な逸話に、リンゴが木から落ちるのを見て、万有引力の法則を思いついたとのことです。小石川植物園にそのリンゴの木の子孫が植えられています。アイディアに悩んだらその木を見に行かれることをお勧めします。

 アルキメデスはお風呂の中で王冠の比重から真偽判定する方法を発想しました。

 これらは、実験室や机の上で発想していません。仕事に没頭しているときより、リラックスしていた時に、ふっと思い付くことがあります。人間の脳の仕組みに理由があるようです。息抜きしているとき、脳の中の回路が断片的な記憶をフレキシブルにつなげたり、切ったりするようです。

ひらめきと記憶の正体 脳の解明が認知症治療につながる | NHK健康チャンネル

ただし、単に息抜きをしていても何も生まれません。それなりの生みの苦しみが必要です。

 

発想に至るまでの必要な過程

発想のために必要な要件は

  • 課題が明確なこと
  • 課題について使命感を持っていること。常に思案していること。たまに息抜きが必要なこと。
  • 専門分野以外に幅広い知識を持っていること、さらに幅広い分野での相談相手を持っていること。
  • 出来れば、ブレインストーミング、TRIZ等の手法を試してみること。

が挙げられます。

 

  • 課題が明確なこと

上司から今の製品の性能を向上させて売り上げ向上を指示されたとします。指示は抽象的です。先ずは何の性能を向上させれば良いか明確にしなければなりません。このような時の手法として下図のようなドリルダウンツリーで分析していく方法があります。この表から抽象的な命題から具体的課題にブレークダウンしていく過程が分かると思います。

次にブレークダウンした開発課題群の中から何をどのように実行していくかの作戦を練らなければなりません。開発企画の立案です。そのためには 「お客様の振る舞いを見る、お客様の声を聞く」が必要です。

「お客様の声を聴け」とよく言われます。非常に大切です。ただし、お客様の声をそのまま鵜呑みにするのは問題があります。不具合点を針小棒大に言ったり、本質からズレたことを思い込みでいう可能性があります。

 昔、教育で「お客様の振る舞いを見よ」との話がありました。ライトバンの設計者に上司がスーパーの駐車場に行って良く観察してこいと指示しました。ライトバンの主なユーザは主婦です。主婦が毎日買い物に使っています。どのように使われているか、自分の目に焼き付けてこいとのことです。

 次機種の企画を行うには、技術者が開発担当する製品がどのような使われ方をしているか肌で感ずる必要があります。真のニーズを知れば次機種には何を性能向上すべきか課題が明確になります。使命感も生まれます。

 

(2)  課題について使命感を持っていること。常に思案していること。たまに息抜きが必要なこと。

    現状機種の技術から企画した次機種開への技術ギャップが解決すべき課題となります。このギャップが大きいほど、お客様の望む姿に近いほど、達成した時、競合他社に差を付けられます。達成感もあります。

 課題の解決には通常新たな発想が必要です。新たな発想を必要しない次機種はすぐに他社にまねされます。技術者たるもの、言われたことしかしないのでは何も生まれません。使命感を持って大きなチャレンジに挑戦してほしいです。使命感が強いほど、解決しなければならない課題が片時も頭から離れません。

 このような追い詰められた状態で、散歩するなり、お風呂に入るなり、ほっとした時にふと良い考えが思いつくようです。ニュートンも、アルキメデスもしかりです。脳の構造によるとのことです。実験室に籠ってばかり、机にかじりついてばかりでは使命感が強くとも、良い発想も生まれません。

 

(3)専門分野以外に幅広い知識を持っていること、さらに幅広い分野での相談相手を持っていること。

 しかし、熱意と使命感と息抜きだけでは新しい発想は生まれません。材料が必要です。ゼロからは生まれません。幅広い知識を持っているが必要になります。ただし借り物の知識でも良いです。アドバイスをもらえる様々な知識を持つ人と幅広い交友関係を持つことも必要です。これらについては前にも触れた通りです。

 

課題解決、新しい発想の助けになる手法にブレインストーミング、TRIZ法があります。

 

ブレインストーミング

会議で使用される「集団発想法」であり、複数人でアイデアを自由に出し合い新たな発想を生むことを目的としています。

 

ブレインストーミングの4原則

判断・結論を出さない(批判厳禁)

粗野な考えを歓迎する(自由奔放)

量を重視する(質より量)

アイディアを結合し発展させる(結合改善)

ブレインストーミング - Wikipedia

はじめから答えを出すことは考えず、ひたすら知恵を出し合うと思いがけないアイディアが生まれます。出るだけ分野の違うメンバーが集まり、人数も最大10名を超えない方が気軽に意見が出ます。

多数テキストが出版されているので、是非手に取ってください。

 

TRIZ

TRIZは、旧ソ連海軍の特許審査官だったゲンリッヒ・アルトシュラーさんが、
250万件もの特許情報を調査し、発明における問題解決を体系化・構造化した問題解決理論・全体最適化理論です。(https://www.spinno.com/blog/archives/5377)

矛盾問題を解決するための発想手法、物理的矛盾を解消するための思考のヒントを与えてくれます。答えはくれません。

例えば、

「仕事もしたいし、遊びたい」 → TRIZからのヒント「時間による分離はどうか」→ 思いついた解決法「午前を仕事、午後は遊び」

例ですので「なんだ ! 」と思われるかもしれませんが、壁にぶつかったとき是非試してみてください。残念ながら私自身はTRIZを用いた経験はありません。

詳しく知りたい方は 「日本TRIZ協会」

日本TRIZ協会ホームページ (triz-japan.org)( http://www.triz-japan.org/)

があります。

 

まとめ

発想とは2つ以上の知識の組み合わせとひらめきにより新たな価値を生むこと

課題を明確にすること。真のニーズをしること。

使命感を持っていること。常に思案していること。

広い知識を持っていること、広く相談相手を持っていること。

たまに息抜きをすること。

ブレインストーミング、TRIZ等の手法を試すのも良い。

 

次回をお楽しみに

 

一休み オナガ

 今回は都心の公園でも良く見られるオナガです。ホームグラウンドの洗足池公園で撮りました。優雅な品を感じさせますので、私の「推し」の鳥です。玉に瑕なのは鳴き声が濁声で美しくないことです。

木彫りのバターナイフもシンプルで気に入っています。

 

社団法人光融合技術協会の技術紹介 その6  

 光学薄膜成膜法の基礎 その2

                 一般社団法人光融合技術協会は https://www.i-opt.org/

 下記資料は、一般社団法人光融合技術協会の生水理事の講演スライドの前回の続きです。もし、質問等ありましたら上記URLを開いていただいて、ホームページの中の問い合わせにご連絡いただけないでしょうか。

以上