優秀な技術者になる・優秀な技術者を育てる その3 日本の技術力の現状

成長市場での日本のシェア低下

 9月5日の日経に以下の記事が載りました。基本的に日本の技術力が低下しています。前述のようなモチベーションが低いことだけが成長市場での日本のシェア低下している原因ではありません。根はもっと深いようです。

最近のニュースで注目論文数で日本は世界13位に後退」とありました。

 

イラン、スペインにも負けています。論文数では世界5位と言い訳がましく報道されていますが、もっと深刻なのは、人口当たりの論文数は世界37位 (2016年   https://blog.goo.ne.jp/toyodang/e/bee524311262ac48a89134496e055bfe)

であります。注目すべき論文数は13位、日本は人口当たりの論文数は世界の37位、これより人口当たりの注目すべき論文数はさらに下位となります。技術立国としてとても世界と戦えない状況です。

 ここで、企業側を覗いてみます。2020年3月31日現在の我が国の研究者(企業、非営利団体・公的機関及び大学等の研究者の合計)は、88万954人です。そのうち約6割の50万7,473人が企業の研究者です。(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nd241520.html)

(ただし、企業における研究職と技術職をどのように区別しているのかは不明です。)

上のグラフは日本の部門別論文数割合の遷移を示しています。平成26年において企業の研究者からの論文は全体論文数の僅か6%です。年々低下しているので、現在はさらに低いと思います。

 

次に特許を見てみます。 

https://www.globalnote.jp/post-5380.html

上図は企業側の国際特許出願件数のグラフです。日本は3位につけています。

日本は注目論文数で世界13位に後退していますが、海外特許出願数は世界3位です。論文数が悪いのに、特許出願数は多く出願されています。このアンバランスは日本の技術力にどのように影響されるか気になります。

 

チャットGPTに聞いてみました

 そこで、今話題の「チャットGPT」に聞いてみました。答えは下の通りです。

「日本の技術力は衰退しないと考えられます。論文数が悪いということは、研究開発において日本が世界のトップを走っていないことを意味しますが、しかし、日本の技術力には著しい改善が見られました。日本は、量子コンピューターの研究開発など、世界の最先端技術開発で注目されていま日本の技術力は、今後も着実に改善されていくと考えられます。特許出願数が多いことから、日本は技術的な革新を行っていることがわかります。」

 

最先端AI技術力

実にチャットGPTからは楽観的な回答が帰ってきました。これも茹でカエル状態かもと思い、最も今後市場が伸びる、技術力が必要と思われるAI技術について調べました。下図をご参照ください。

グローバルAIタレントレポート2019 (https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/04/035821df76711386.html)

によれば、AI研究者数(2018年に主要なAI会議で英語論文を発表した研究者数)でみると、1位は米国(10,295人)、2位中国(2,525人)、3位イギリス(1,475人)、4位ドイツ(935人)、5位カナダ(815人)、6位日本(805人)とか見なり劣りのする状況になっています。 また、AI関連特許出願(技術分類G06Nが付与されている特許出願)の件数は主要5か国で最も遅れを取っている状況です。

今後の日本の競争力

技術で稼いでいる日本は、技術力の低下がGDPに影響します。国民一人当たりの名目GDPでみてみると、諸外国との差は顕著となり、日本は、20年前に世界第2位だったのに対し、次第に順位を下げ、最近では20位以下まで順位を下げています。

https://chizai-partners.net/ip-strategy/personal-opinion-of-japans-international-competitiveness_2/

 このように、既存技術だけを見ると、しばらくは持ちこたえられそうですが、AI等、巨大な市場が見込まれていて、研究と技術が連携して進まなければならない最先端分野では、日本の競争力は徐々に後退しているものと感じられます。

 

まとめ

  1. 成長市場での日本のシェア低下している
  2. 注目論文数で日本は世界13位に後退
  3. 日本は人口当たりの論文数は世界の37位
  4. 平成26年において企業の研究者からの論文は全体論文数の僅か6%、年々低下している
  5. ただし、国際特許出願件数において、日本は3位につけている。
  6. チャットGPTの答えは「日本の技術力は、今後も着実に改善されていくと考えられます。」
  7. 国民一人当たりの名目GDPでみてみると、諸外国との差は顕著となり、日本は、20年前に世界第2位だったのに対し、次第に順位を下げ、最近では20位以下まで順位を下げている。

私の意見

研究開発は技術を牽引します。論文数が減っていることは、ジワリと先端の技術力を低下させていきます。企業技術者も研究開発を支え発信していかなければなりません。

考えていきましょう。

 

 

一休み  大田区洗足池公園のエナガ

 私の鳥撮りのホームグラウンドは大田区洗足池公園です。この公園には人気の高い北海道のシマエナガにも負けない可愛いエナガがいます。雛達が一列に並ぶ「エナガ団子」にも会えます。

 

一般社団法人光融合技術協会の技術紹介 その3

 光学薄膜(反射防止膜)の設計手法 前編

はじめに

 薄膜の干渉を利用した光学薄膜で最も利用されている膜種は反射防止膜である。歴史的に見て反射防止膜は、反射防止による透過光の増加を目的として開発されてきた。第2次世界大戦では潜水艦の潜望鏡の透過率を向上させるために、真空蒸着によるMgF2単層コートが実用化された。その後カメラレンズの反射防止膜として多層膜反射防止膜が実用化され、その基本技術はその他の光学機器にも利用されている。

1.単層反射防止膜

薄膜の干渉を利用した反射防止膜の基本的な考え方は次の通りである。便宜上入射媒質は空気(n=1.0)、各媒質(薄膜、基板)の屈折率の波長分散は考慮せず、入射光は垂直入射(0°入射)とする。ガラス基板の上に1層薄膜を成膜した場合、入射した光は、一部は薄膜表面で反射(反射光1)され、透過した光は薄膜とガラスの境界面で一部の光が反射(反射光2)される。薄膜とガラス界面で反射した光と薄膜表面で反射した光が干渉し、光の振幅条件と位相条件を満たす場合反射率を0にすることが可能となる。図1より振幅条件は反射光1と反射光2の振幅が等しく、位相条件は反射光1と反射光2の位相差がλ/2になることを意味する。この場合注意したい点は屈折率が低い層から高い層で反射される場合(薄膜の屈折率は基板より低い必要がある)は同じ反射位相を取るが、逆の場合は反射位相が180°変化する。つまり基板より屈折率が高い単層膜では上記条件では反射増加膜になる。よって単層反射防止膜を実現するには薄膜の屈折率が基板より低い必要がある。

反射防止が成立する条件は以下の通りである。

①振幅条件 

    :フレネルの反射式から求められる

②位相条件 

     :位相差は薄膜内の光が往復することにより 2*λ/4=λ/2

基板の屈折率:ng  薄膜の屈折率:n  薄膜の膜厚:d

 

 上記条件式より単波長で反射防止を行うには、薄膜の屈折率が基板の屈折率の平方根であることが要求される。位相条件を満たすことは薄膜成膜時に制御可能であるが、振幅条件を満たす光学薄膜材料は限られており、実際にはこの条件に近い屈折率を有する材料を使っている。1例として標準的なガラス基板である白板の場合、屈折率は1.52であるので、この振幅条件を満たす薄膜材料には屈折率1.22のものが必要とされる。現実このような屈折率を有する薄膜材料は無く、一番屈折率の低いMgF2n =1.38)が使われている。この場合振幅条件を満たさないために、位相条件を満たす波長(λ=4nd)で最小反射率を有する。しかしMgF2でも屈折率が1.9の高屈折率光学ガラスの場合、振幅条件を満たし反射率をほぼ0にすることが可能である。図2参照

 

つづく 次回は広帯域反射防止膜について